隠れん坊

3.夜明け

「……寝覚最悪…」
まだ辺りは薄暗い。夢見のせいで随分早く起きてしまったようだった。折角なのでベランダに出てみる。
地平線が白っぽくて、その白い光りがだんだん上がると空がどんどん昼間の色に近づいていく。どこか黒かった青が、どこか白い青に変わる。すうっ、と深呼吸をして、部屋に戻った。今日は日曜日で会社がないうえに、彼女を捜すにも当人がこの時間からうろついているとは思えない。朝ご飯を作って食べながら、ぼんやりと時間をつぶす。

ふと眩しくなって思わず目をつぶった。カーテンを閉め忘れた窓から日光が射してきたのだった。もう日がだいぶ高くなっている。
僕は彼女の自宅に電話をかける。コール音が一回、二回、三回、四回…。十回鳴ったところで留守番電話が作動した。
「おはよう。ゲーム、再開します。あと……ごめんな」
そう吹き込んで、受話器を静かに置いた。

交通量の多い車道にそって歩きながら、僕は彼女の家に向かっていた。
始めから、解っているのだ。ゲームのようなものなのだと。いつものことなのだから。彼女は喧嘩したり何かあったりすると、いつもどこかへ隠れて、ゲームが始まる。制限時間は彼女が意図的に僕の前に姿を現して、ゲームオーバーを告げるまで。僕はこれまで何度も負けてきた。もちろんちゃんと見つけて勝ったときもあったが、実はどちらでもよかった。いずれは彼女が自ら出てくることもあるが、どこへ逃げようが、どこかへ隠れようが、大して遠くない場所に彼女がいるという安心感からだった。無色透明な糸が僕に味方でもして、彼女を繋ぎ止めていたのだろうか。
残暑の厳しさに汗を滴らせながら彼女の家の前まできて、まさか自室にはいないよな、と思い、近くの喫茶店に入る。お冷やを飲み、汗を拭きながらくつろぐ。メニューを見ていると、誰かが向かいに座った。
不審に思って顔をあげると、そこにいたのは夢見の悪さを吹き飛ばす程にそこにいるのが当たり前のような顔をした彼女だった。僕は思わず口元が緩み、額を手でぱちんと打った。彼女は少し得意気に微笑んで、言った。

「ゲームオーバー。また、私の勝ちね」

<終>




*あとがき。
『隠れん坊』は、cali≠gariの曲である『空想カニバル』を元にして書きました。
曲や歌詞からイメージを膨らませました。
不思議な雰囲気と、空の色調をうまく出せるように頑張ってみたんですがどうなんでしょう・・・。
ちなみに右下隅の画像というか円はペイントにて自作ですw
jpeg保存で画質がなんか荒くなったような気がします・・・。