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「う・・・ん」
聞こえる声の賑やかさと、陽の光のまぶしさを感じて公麿は目を覚ました。
そこは三國がよくいた公園のベンチだった。
(なんだか、前と印象が違うな。 何十年か古いっていうか・・・)
公園には活気があり、緑は広がるものの、周囲に高い建物など数えるほどしかない。
金融街に行く前まで存在したがCの余波で消えたスカイツリーも、見当たらないままだった。
まだはっきりしない意識を引き寄せて視界をはっきりさせてみると、公園は親子であふれていた。
(ああ、未来は取り戻せたんだ)
そう安堵を覚えて微笑む公麿の前を、屈強なアメリカ人の集団が過ぎて行った。
辺りを見回すと、日本人よりもそれ以外やハーフらしき人々の方が多く見える。耳に入る声は、日本語と英語が混在していた。

「あれ? あんなに集団でいること今まであったっけ?そもそも、
いつもこんなに多かったっけ?」
公麿はそう独り言をつぶやいた。

公園のベンチを後にし、街を歩いてみると、昭和の頃を連想させる街並みとなっていた。大型スーパーや洒落たビルなどはなく、商店街となっている。店の一つには「2$市」というのぼりがはためいていた。変なセールをするなあ、と少し奇妙に、そして不安に思った。
不安を払おうと、自分の記憶を確かめようと、公麿はアルバイトをしていた
コンビニへ向かった。

そこには元のようにコンビニがあった。中に入ってみると、前からよく食べる「俺の麺」が売られていた。
(なんだ、別に変わり果ててないじゃん)
逆回転後謎の人物に言われたことを思い出す。せっかくなので買おうと、財布とその中身があることを見て値札を確認した。
「・・・ここも、ドル?」
財布の中身は、硬貨も紙幣も、円であった。
レジの様子を覗いても、「〜〜ドルお預かりします」という声が聞こえてくる。

混乱しながら次に公麿の足が向いたのは、生田羽奈日の家であった。
場所も外観はそのままであったが、表札が「長田」と、異なるものになっていた。
とまどっていると、子供の声が聞こえ、その家の家族が出てきそうだったため、公麿はその場を離れた。
去り際に、江原先生の声が聞こえたような気がした。

その後どこに行くか考えあぐねた結果、公麿は公園のベンチへ戻り、呆然としていた。
頭上を通り過ぎる米軍飛行機の音のうるささに、すこし眉をひそめる。
その前を小さな子供たちが通り過ぎる。
 
「乗り出しちゃだーめ」
 
雑多な音に混じって、聞きなれた、特別な声が耳に入り、公麿は我に返って前を見た。
そこには、羽奈日と同じ顔をした保母が歩いていた。
「はなび・・・!」
公麿は思わず叫んで呼び掛けたが、相手はこちらを振り向きすらせずに通過して行った。
幼児が不思議そうに公麿を見ていた。
元気のなかった頃と比べ、確実に活発になり、子供好きという思いからすれば夢を叶えたといえる「ハナビ」を見て嬉しい気持ちと、あの人は「羽奈日」ではないのだという気持ちが混ざり、公麿は再度混乱した。
ひとまずよかったということに一度結論付け、微笑んでいると
 
「感慨に浸っているところ誠に恐縮ですが」
 
と真坂木にごく自然に声をかけられた。真坂木は、驚く公麿をよそに発言を続ける。
「申し上げておきますが、あの女性は似てはいるかもしれませんが、別人です。かといって、あなたのかつての想い人がどこか別の場所で幸せな未来を取り戻している・・・ということもなく、全ては全く別物に組み替えられましたので、悪しからず」
「どういうことだ? というより、そもそも、なんでいるんだよ!」
「あなたの『取り戻した未来』の結果でございますよ。
未来あるところに、金融街ありなのです」
真坂木は不敵に笑った。
 
公麿は整理しきれない頭の中から、どうにか言葉を発した。
「それもだけど、そうじゃなくて、別っていうのは」
「そのまま、言葉通りでございます。上の者が申した通り、『君の知っている世界とはすっかり変わり果ててしまっている』世界でございますよ」
「もっと具体的に教えてくれよ! あ、さっき、店の値札がドルだったんだけど」
「ああ、それですか。日本円の価値がなくなった上に、逆回転ですからねえ。通貨は『ドル』になってしまいましたねえ。日本はアメリカの領地だったということになります〜」
「じゃあ、ここ、日本じゃ、ないの」
 
かすれ声で途切れながら尋ねる公麿に、真坂木はいつものように飄々と返す。
「地域としては日本でございますよ〜。ですが国としては日本ではございません〜。まあ、悲しむことはございませんよ〜。未来は依然と比較にならないほどありますし、国の終わりがすべての終わりではありませんからねえ〜。ちゃんと、公用語は日本語も認められていますし、余賀さんの思う様な日本文化も残ってはいますよ〜」
 
しばらくの沈黙の後、公麿は再度小さく言葉を発した。
「俺の財布、日本円しか入ってないんだけど」
「さあ〜それは私どもの関知するところではございませんので・・・。あなた様の選択した行動の結果でございますからね〜。あ、ちなみに、その通貨は海外のアントレを除き、この世界では存在しないはず・・・知られていない通貨ですので。両替しようとしても、『何だこのおもちゃは!』とか、そんな感じで怒られるでしょうね〜フフフフ」
 
真坂木の楽しそうな笑い声を聞きながら、公麿は自分の気持ちがどんどん沈んでいくのを感じていた。
耳には、子供たちの幸せそうな声が届く。何か活路はないかと考えをめぐらせた。真坂木は暇なのか、公麿に特に話しかけるでもなくニヤニヤと笑いながら隣に座ったままでいた。
 
「三國さんとかは・・・どうなの」
「はて、どうと申されましても。先ほど申し上げた通り、すべて別物として組み直されておりますので、『三國壮一郎』という名前の人物が、同じ顔で存在したとしても、それは余賀さんの知るその人ではありませんねえ」
「全部そうなの」
「おや? 先ほどから妙なことをおっしゃいますねえ。あんなに必死になって逆回転をしようとなさったのに、こうなることは考えていなかったんですか?
何度でもご説明いたしますよ。 ここは、『余賀さん以外は、すべて別のものとして再構成された、ドルが通貨の、日本であって日本でない、経済的には発展途上の、たくさんの未来に溢れた世界』・・・です」
 
そこまで考えていなかったよ、勘弁してくれよ、と公麿は思った。
真坂木以外、つまり現実的には知り合いが全くおらず、生活基盤も、知識も、お金もないという事態に、少しどころではなく涙が出そうになった。
公麿は顔を手で覆いながら、真坂木に尋ねた。
「なあ・・・未来を取り戻せたんなら、あのまま閉塞していくよりもよかったんだよな?
俺の選択、間違ってないんだよな?」
「さ〜どうなんでございましょうねえ〜。 私どもといたしましては、未来があるというのは非常に喜ばしいことですが、これまで日本や極東金融街のアントレ達が積み上げてきたり、あがいてきたりしたもの・・・そうですね、あの時点での「現在」と申しましょうか。それは、さしずめ ゼロ、になったと言えますね〜」
ゼロ、という言葉をはっきりと区切って、強調して真坂木は述べた。
 
『――後悔しないな 好きにするがいい』
逆回転前に三國が言った言葉が思い出される。
公麿は、後悔しないように、絶望しないようにするのに必死になった。
 
俺のしてきたことって、なんだったんだろう。
その言葉だけは口に出さないように、何とか押しとどめた。
 
「いずれにしましても、『三國様の、手間も時間もお金も想いもかけて積み上げてきた仕組みや実績、思想を、ご自分の感情の赴くままに否定し、サトウ様の考えに丸乗りする形であなたが起こした行動』 ・・・の、結末ですので。余賀さんが後悔しようが絶望しようが、飲み込んで頂く他はありませんね〜。大丈夫ですよ、あなたの望んだ未来は、ちゃ〜んとたくさんありますよお〜。ほーら、公園は暇そうな親子連れで溢れているではありませんか! 国際色も豊かですねえ〜」

公麿の心情を知ってか知らずか、真坂木の追い打ちのような励ましのようなはしゃいだ言葉に、公麿はまた泣きたくなった。
三國もまた正しかったのだと、絶対的に正しい答えなどなかったのだと、感情を優先させすぎた自分を少し恥じた。
思い返せば、三國はデメリットをも「俺の手は血に汚れている」として自覚をした上で行動していた。
一方公麿自身は未来が閉塞いていくのが嫌だ、目の前の人が苦しむのは嫌だ、とそればかり考えていたが、自分のいる『現在』が丸ごとなくなってしまうことや、その結果世界が「後退」することなどは考えもしなかったのだ。

がっくりと力の抜ける公麿の頭上を、再度米軍の飛行機が通り過ぎた。
その音が止んだ頃、「あ、そうそう」、と真坂木は立ち上がって言った。
「余賀さんを知る人は、この世界には私以外はいませんし、余賀さんには生活基盤やお金もありません。そこで、ご案内です〜。気が向けば是非とも、パワーアップしたこちらの金融街へお越しください〜。お金も得られますし、アントレ同士で知り合いになれますし、三國様のようにすれば現実への影響を考えた金融街へとすることができますよ〜」

ニイ、と笑う真坂木に、公麿はたじろぐ。

「未来の担保、お待ちしておりますよ〜。その気になりましたら、どうぞお声をおかけくださいませ〜。では〜」
そう言って、真坂木は姿を消した。

自分の選択の結果の整理もつかない公麿は、ポケットから写真を取り出す。
竹田崎からオマケで買った、三國達と写る写真だった。
「俺が元の世界にいた痕跡って、これだけか・・・」
自分だけが仏頂面に映る写真から目を離し、空を仰いで公麿はつぶやく。

「こんなことなら、笑っておけばよかったな」

<終>
 
 
 
*あとがき。
三國さんひいきからくる私怨と
公麿の選択の結果が、最善でキラキラかのように
描かれすぎじゃないかなあ、ってことで、
描かれた情報や予想されるデメリットを誇張しました。
公麿がしたのはどういうことだったのかを言語化したかった。
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